ソフトウェア開発費の見積り、プロジェクトマネジメント、
発注者と受注者の間の合意形成等に参考となる情報を不定期に掲載していきます。
不確実性と向き合う見積り 第4回
見積りをチームの対話にする
2026.09.10
著者:
Scrum Inc. Japan 山本 尊人
開発の見通しを持つためには、見積りが必要です。では、不確実性の高い仕事を、どのように見積もればよいのでしょうか。
開発を進めながら予測を更新していくのであれば、見積りも必要なときに素早く行えることが求められます。そのたびにすべての作業について詳細な工数を積み上げていては、見積りそのものに多くの時間がかかってしまいます。
また、一人の経験や判断だけで見積もれば、その人が気づいていないリスクや前提が数字に反映されない可能性もあります。
不確実な状況で求められるのは、精緻な数字よりも、素早く見積もれること、そしてその過程でチームが持つ情報を持ち寄れることです。
■何時間かではなく、どれくらい大きいかで考える
不確実性の高い仕事では、この作業には何時間かかる、と時間を直接予測する代わりに、すでに理解している仕事と比較して大きさを捉える方法があります。ストーリーポイントは、その代表的な方法の一つです。
たとえば、ある仕事を基準として、それと比べて同じくらいなのか、少し大きいのか、それともかなり大きいのかを比較していきます。絶対的な時間を直接予測するのが難しい場合でも、すでに経験した仕事との比較であれば、大きさの違いを捉えやすくなります。
ストーリーポイントは、チームが仕事の大きさを相対的に比較するための尺度であり、時間へ精密に換算することを目的としたものではありません。仕事の大きさを考える際には、作業量だけでなく、複雑さや不確実性なども考慮されることがあります。
1、2、3、5、8……のように、数字が大きくなるほど間隔を広げた尺度がよく使われます。これは、大きな仕事ほど細かな差を正確に見積もることが難しくなるためです。細かな数字まで区別して精密に見せるより、仕事同士の大きさの違いを捉えることを重視します。
多数の仕事をまとめて見積もる場合には、仕事同士を比較しながら大きさの近いものを並べていく、アフィニティ見積りという方法もあります。第3回で紹介した四半期計画では、この方法を使って55件の仕事を約25分で見積もり、合計236ポイントとしました。
■見積りが違うところに、情報がある
見積りの違いを対話につなげる方法の一つが、プランニングポーカーです。メンバーがそれぞれ仕事の大きさを考え、カードなどを使って同時に見積りを提示します。

【図:プランニングポーカー】
同じ仕事を見ていても、ある人は2、別の人は8と考えるかもしれません。このとき重要なのは、どちらの数字が正しいのかをすぐに決めることではありません。なぜ見積りが違ったのかを確かめることです。
図のように、外部連携の有無をどう見ているかで、大きさの捉え方は変わります。仕様がまだ決まっていないことをリスクとして捉えた人もいれば、以前似た機能で問題が起きた経験から、その難しさを知っている人もいます。
見積りのばらつきは、単なる誤差ではありません。そこには、認識の違い、暗黙の前提、まだ共有されていない知識、不確実性が隠れている可能性があります。数字の違いをなくすことより、その違いがなぜ生まれたのかを理解することに価値があります。
対話の結果、全員が同じ数字になること自体が目的ではありません。数字の違いをきっかけに、それぞれが見えていたものを共有します。前提の違いが明らかになれば、追加の確認が必要だと分かることもあります。仕事が大きすぎると気づき、より小さく分けることもあるでしょう。
■見積りは、チームで共通理解をつくる場
このように考えると、見積りは単に数字を決める作業ではなくなります。何を作るのか、どこが難しいのか、何がまだ分からないのかをチームで確認する対話の場になります。そこで明らかになった情報や前提は、チーム内の共通理解だけでなく、関係者が認識を合わせるための材料にもなります。
2ポイント、8ポイントといった数字だけを見るのではなく、なぜその見積りになったのか、どのような不確実性が見つかったのか、何を確認し、分割し、探索する必要があるのかを考えます。
アフィニティ見積りやプランニングポーカーは、相対見積りを行う方法の一例です。チームや仕事の性質によっては、別の方法が適している場合もあります。重要なのは、見積りを通じて認識の違いを発見し、共通理解をつくることです。
■見積りの先にある問いは、それだけの価値があるか
ここまで、仕事の規模や不確実性をどう捉えるかを見てきました。しかし、仕事の規模をうまく見積もれるようになったとしても、それだけでは、その仕事をやるべきかどうかは決まりません。
同じ8ポイントの仕事でも、大きな価値を生むものもあれば、ほとんど使われないものもあります。限られた予算と時間の中では、どれくらいかかるかだけでなく、それだけの投資をする価値があるかを考える必要があります。
では、何を優先するのかを、どのように考えればよいのでしょうか。
次回は、仕事の大きさだけでなく、価値やROIの視点も組み合わせ、限られた投資をどこに使うかを選ぶ方法を取り上げます。
※このコラムは全6回を予定しています。
大手SIerにおけるシステム開発の経験を経て、現在はScrum Inc. Japanで、企業や組織のアジャイル開発・組織変革を支援。スクラムの導入・実践、プロダクト開発、組織づくりに関するコーチングや研修、人材育成に携わる。企業支援と大学教育の双方を通じて、複雑で変化の大きい環境におけるプロダクト開発とマネジメントのあり方を伝えている。関西学院大学、山梨大学非常勤講師。